産業医の大石です。
今回は、産業医として面談する機会がありますが、よく
- 産業医面談って、絶対やらないとダメ?
- 意味なくない?
- いつやるの?
- 何を準備するの?
- プライバシーは守られるの?
など意見をいただきます。
今回はそれらにまとめて、私なりにお答えしようと思います。
産業医面談とは?
産業医面談の定義
産業医面談を定義するのは難しいですが、あえてするなら
- 産業医が労働者に対して行う、義務もしくは任意による面談
と言ったところでしょうか。
産業医面談は義務なのか?
厚労省のページが非常にわかりにくいのですが
- 月の残業時間が80時間を超え、労働者から申し出があった場合
は、会社側に産業医と面談をさせる義務が課されています。
なお高度プロフェッショナル制度人材、研究開発人材は100時間を超えた場合、労働者からの申し出にかかわらず強制的に面談対象となります。
なお、労働者は申し出をしなかった場合でも、作業環境、労働時間、深夜労働の回数などについて情報共有をする必要があります。
産業医面談の目的と役割
産業医面談には、義務でない場合も含めて、大きく3つの役割があります。
1、従業員の健康管理
最重要項目です。
従業員の健康状態を見極め、必要あれば適切な医療機関の受診を促します。
場合によっては紹介状を作成することもあります。
2、職場環境の改善
従業員の健康を害している原因が、職場環境にある場合は、それらの改善も検討します。
産業医では職場巡視を行いますが、職場巡視をする事がここで活きてきます。
職場巡視を通じて労働環境を知るからこそ、仮に健康を害している従業員がいたとして、それが労働環境が原因なのかどうか、考えることができるわけです。
従業員の健康を害している原因が職場にありそうかどうか、因果関係についての推定精度を高めているのです。
3、復職支援のサポート
そして何かしらの理由で既に休職なり、職場から離脱してしまった人の復帰も支援します。
大きくは
- ケガや病気
- メンタル
に分かれます。
前者に関しては、骨折して治療したが、どういった作業からどう復帰していくのが適切か。大腸癌に対して結腸切除およびストマ増設を開腹手術をおこなったが、重いものは持たない方が良いのか、などです。主治医の意見を取り入れ、現場レベルの具体的な指示に翻訳するのが産業医の役目と言えます。
後者に関しては、主治医の意見を取り入れ、ご本人と相談しながらどう復職していくのかを検討します。具体的には
- 頻度(週3から始める場合が多いです)
- 時間(一般に時短勤務から始めることが多いです)
について、話し合って検討します。
産業医面談のタイミングと種類
4つあります。
1、健康診断後の面談
健康診断を一般的には年に1回、特定業務を行っている方は2回行います。
その後、産業医が結果をチェックし、結果が悪く早急な対応が必要な場合、面談を組む場合があります。
(例)HbA1cが前回7.2→今回10.8、ちゃんと通院しているのか?通院しているならなぜこんな悪くなっているか?ちゃんと薬を飲んでいるか?
その後、場合によっては紹介状を作成し、受診を促す場合もあります。
2、高ストレス者への面談
ストレスチェックを年に1回行いますが、それによる高ストレスと判定された方の面談も含みます。
ご本人は「大丈夫です」と言っている場合でも、ヒアリングしていくと不眠があったりすることもゼロではありません。
「産業医面談までいかなくても…」と考えている、予備軍をキャッチアップして病気を予防するには、良い機会だと言えるでしょう。
3、長時間労働者への面談
長時間労働は、健康を害します。
長時間労働で来す健康障害は、メンタルだけだと思われていますが、それだけではありません。
実は高血圧を引き起こしますし、血糖値も上がります。これは人間がストレスに対抗するための、生理現象ですから、仕方ありません。
しかしながら放置する事で、例えば脳出血、糖尿病の悪化などが進行する恐れがあるため、産業医が面談で介入する必要があります。
通院頻度や内服コンプライアンスの確認などを産業医が行い、あまりにも通院が先で内服変更が必要そうな場合は、通院の予約を早めてもらうようお話しする場合もあります。
長時間労働者に対する面談義務については、別のページをご覧ください。
4、休職・復職に関する面談
復職に関しては既出の通りです。
休職判断についても、基本的には面談を挟んで行います。
産業医面談の具体的な進行
面談時の持ち物と準備
面談のタイミングによりますが、以下の物を準備して頂きます。
- 健康診断結果
- ストレスチェックの結果
- 残業時間表
- お薬手帳
- 診断書、主治医意見書
面談の流れと時間
面談は衛生委員会、もしくは健康管理室のメンバーが間に入り、日程調整をした上で行います。
オンライン面談の対応
最近ではオンライン面談を行なっている事業所が、増えてきました。
しかしながら、上記のような書類や、情報の管理がオンライン化する事によるセキュリティコストの面から、一定以上の企業に限られているのが現状です。
産業医面談における注意点
プライバシーの保護と守秘義務
基本的に面談の内容は、本人の受諾なしに外部に開示できません。
会社側もそれを理解する必要があると言えます。
上司や人事の同席は必要か?
必ずしも必要ではありません。
従業員の方は、上司の同席を拒否する事ができます。
しかしながら、会社組織全体として、同席した方がそこから吸い上げた意見を元に動いた方が、効率的になる場合もあるでしょう。
あくまでご本人の許諾を得ずに、誰かを同席させる事はできませんので、そこは相談になります。
面談後のフォローアップ
面談して終わり、では意味がありません。
重症な方ほど次のアクションが重要になります。
紹介状を作成したら、受診を促すために受診先の候補を伝える、次の面談予定をその場で組むなどの必要があります。
産業医面談でよくある質問
産業医面談を断る理由は?
産業医面談を断るための理由を探している方が、いらっしゃるようです。
上記のように、場合によっては義務であり、必要なものです。そもそも予防という行為そのものが、効果が見えにくいのですが、そこはご協力いただけると幸いです。
産業医面談で持病の相談は可能か?
契約形態や、産業医によると思われます。
私自身は、当然可能としておりますが、その場での診断・治療はできません(クリニックではありませんので)。
産業医面談の効果とメリット
従業員の健康向上
従業員の健康問題に対して、予防ないしは早期発見・治療につながる事で、健康向上に寄与します。
人材不足の世の中ですから、昨今は重要視されているポイントです。
職場全体の労働環境改善
また職場全体の労働環境改善につながります。
健康を害する原因が職場にある場合、それらを排除するPDCAが回り続けるので、少しずつ改善が進んでいきます。
企業のリスクマネジメント
上記2つを通じて、健康面でのリスクマネジメントができます。
また法的にも、キチンと義務を果たす事でリスクマネジメントできます。
産業医がいない場合の対策
産業医がいない場合、外部の産業医を使う事で対応できます。
外部産業医の利用方法
弊事務所のように、オンライン上のでの相談ベースで産業医を利用する、という企業も増えてきています。
職場巡視はできないため、そこは注意です。
まとめ:産業医面談で従業員の健康を守るために
まずは産業医面談の意味と目的を理解しましょう。
正しく運用する事で、従業員の健康面をケアでき、間接的に人材保護に繋がります。人手不足、採用費用高騰の世の中からすれば、企業から見てコスパが良くなっていると言えるでしょう。
もし産業医がいない場合は、外部の産業医を利用する事も、検討しましょう。